変身

 ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと目覚めてみると、ベッドの中で自分の姿が一匹の、とてつもなくおおきな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。

 フランツ・カフカ作「変身」の冒頭である。このあとグレゴールは同居の家族に発見され、一応は「飼ってもらう」ことになる

 はたして、独りで暮らしている自分の身にグレゴールと同じことが、ある朝目覚めてみると毒虫に変身していたら、いったいどうなるのだろうか。まったくないこととは言い切れない。未知のウイルスや遺伝子操作など、ありえない話ではない。現在、地球には数百種類の異性人が行き交い、生活している。気づいてないのは地球人だけなのだ…

 ある朝、俺が不安な夢からふと目覚めてみると、ベッドの中で自分の姿が一匹の、とてつもなくおおきな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。褐色の、弓形の固い節で分け目をいれられた腹部を下にして、人間でいうとうつ伏せになっている。寝入るときにはきちんと掛けていた掛け布団の重みはなく、この姿で寝返りをうつことはできそうもないので、寝入ってからすぐに毒虫に変体したわけではなさそうだ。
 いったい、自分の身に何が起こったのか、と俺は考えてみた。これは夢ではなかろうか。これまで、眠りから覚める夢はみたことがなかったが、これからも見ないとは限らない。そうだ、これは夢だ。目覚めたそのままの体勢からまっすぐの場所に見える目覚まし時計は、作動するまでまだ一時間ほどの時刻をさしていた。これが夢ならば、あまり気分のいいものでもないのでとりあえずあと一時間は眠ろうと考えた。
 眠っているはずの間中、ずっと自分の呼吸、心臓の鼓動、鳥の鳴き声などが聞こえていた。そうこうしているうちに、目覚まし時計が作動し、ここで夢から覚めるものと思ったが、事態に変化はなかった。相変わらず自分の姿は毒虫のままで、見える風景はまったくいつもの寝室だった。尿意はあったが、朝勃ちの感じはなかった。とりあえずこの尿意をなんとかしたかったのと、いったどれだけ自分の身体が自分の意思で動くのか心配でもあったのでトイレに向かうことにした。便座に座れるのか、そもそも尿道がどこにあるのかまったく見当もつかなかったが、とにかくベッドの上にじっとしていてもしょうがないと、自分の身に起こった奇怪な事実をあっさりと受け止めた。頭の片隅には、どうせ夢なんだという思いもあったが…

明日へ続く