遺書―5人の若者が残した最期の言葉

遺書―5人の若者が残した最期の言葉 (幻冬舎文庫)

遺書―5人の若者が残した最期の言葉 (幻冬舎文庫)

 その表紙から松本人志の「遺書」のような軽さは感じられず(けっして松本人志の「遺書」がうんこだと言うのではなくお笑いタレント特有の、イメージとしての軽さとでもいうところか。松本の遺書は面白かった。)非常に重々しい、張り詰めた空気を纏っていた。その空気はしだいに低気圧な俺の方へ流れ込み、身体の自由を絡めとリ右手を本へと伸ばさせた。
 はじめはちょっと立ち読みで済ますつもりだったのだが、読み進めるうちに、こみ上げてくる様々な感情と嗚咽を堪えきれなくなり、臨界を突破する前にレジへと足を運んだ。レジの眼鏡ちゃんは感情を抑えながらも陰った俺の表情から何も汲み取ることができなかったのか、機械的に文庫本のカバーは要るか訊いてきた。俺は今声を出しても声にならないだろうと思い、何より裏返り声など発したときにはあまりに恥ずかしいので、唖を装い手振りで不要の旨を伝えた。
 帰路の車中、少し立ち読んだだけの13歳の少年の遺書が頭の中でリフレインしていた。その13歳の語彙で書かれたあまりに簡素だが重い言葉は、俺の頭を飛び出し、狭い室内で反響を繰り返していたので危険を感じた俺は窓を開け放した。
 本書は5人の遺書を元に構成されている。5人の遺書の本文だけで本が一冊できるわけもなく、自殺の背景、遺族の言葉などが同時に記されている。読了したあとには自慰的に読感を書こうと思うが、ほんの数ページ読んだだけで感情を抑えきれなくなるのでいつ読了できるかはわからない。